世界自然遺産「白神山地」この森で出会った全ては、人生の宝物
世界最大級のブナ原生林・白神山地で深呼吸
2023年に世界自然遺産登録30周年を迎えた「白神山地」。今回は、白神山地と周辺の観光スポットについてご紹介します。8,000年の歴史の森を体感しに、いざ白神へ!
ブナ原生林が生い茂る散策道へ
白神山地は、青森県南西部から秋田県北西部にまたがる、13万ヘクタールに及ぶ広大な山岳地帯の総称です。このうち原生的なブナ林が広がる核心地域が、日本初の世界自然遺産として1993年12月に登録されました。
白神山地の青森県側の面積は全体の4分の3を占め、西目屋村、鰺ヶ沢町、深浦町の3つの町村にまたがっています。今回は青森県西目屋村から白神山地にアクセスしてブナ林散策道を歩き、世界に誇る白神山地を体験しました。
弘前市の中心街から車で約40分の距離にある西目屋村。さらに30分ほど山道を進んでいくと「アクアグリーンビレッジANMON」があります。このスポットを拠点に「世界遺産の径 ブナ林散策道」へと出発です!
「世界遺産の径 ブナ林散策道」は1周およそ2キロの初級コースで、世界自然遺産に認定された区域を歩くことができます。散策道は歩きやすいように整備されているため、一般的なスニーカーでも問題ありません。ただ、場所によってはぬかるみや歩きにくい場所もあるので、トレッキングシューズなど足元がしっかりした靴だと安心ですよ。夏は特に虫が多いので、長袖・長ズボンで肌の露出を控え、帽子や虫除けスプレー、水分などは持参するのがよいでしょう。
散策道を歩き始めて最初の20分ほどは、ずっと登り道。普段それほど身体を動かさない人は、息が切れるかもしれません。ふと立ち止まって見上げると、360度どこを見渡しても人工物がない森が迫ってきます。ブナ原生林を始め、ミズナラやサワグルミなど、一歩進むごとにさまざまな樹木や植物が目に入ってきます。足元にもブナやホオノキの実が落ちていたり、木の幹や看板にクマの爪痕が残っていたり。この森に生きる動植物の営みが、森のあちこちから感じられます。ブナによって植生が守られているのも、白神山地の特長です。
白神山地は、人為の影響をほとんど受けていない原生的なブナ林が世界最大級の規模で分布していることが世界的に評価され、世界自然遺産に認定されています。この地にブナ林ができたのはおよそ8000年前とされていて、日本でいう縄文時代にあたるそうです。
8000年もの間、変わらずにずっとここでいのちの循環を繰り返し、白神山地があり続けている…そう思うと、改めて白神山地の歴史の深さやスケールに圧倒されますね。
散策道のルートに沿って進んでいると、道沿いに沢があります。白神山地は「天然のダム」ともいわれるほど保水力に優れた森だそうで、地表を覆う厚いブナの葉土に雨水や雪解け水が蓄えられ、長い年月をかけて地下に浸透します。森の土壌によって不純物を取り除かれた水が湧き水となって流れており、沢に沿って進んだ先には水飲み場がありました。触ってみるとよく冷えて肌に馴染むような柔らかさ。白神山地の湧き水は、山からのミネラルをたっぷりと含んだ軟水だそうです。この水を汲みに、白神まで足を運ぶ方も多いそう。
白神を訪れた日は快晴のお天気でしたが、森に一歩入ると涼しく、ブナの木陰が心地よく感じられました。耳を澄ますと近くの沢から水が流れる音や、野鳥やカエルなどの鳴き声、時おり吹く風に木々の葉が揺れてざわざわとした音も聴こえてきます。それらすべてがまるで癒しのBGMのようで、電子音が一切しない空間に癒されました。
ブナ林散策道は、1周回るのに1時間程度かかりました。森は日本全国どこにでもあるけれど、ブナの原生林が大規模に広がっているのは白神山地だけ。散策道だけでも十分楽しめますが、山歩きできる装備がある方は、7つある散策コースのうちの上級者向けルートに挑戦してみるのもよいでしょう。それぞれのコースで出会える景色が違うので、白神山地を満喫できますよ。
旅人メモ:赤石川で獲れたイワナの塩焼き
アクアグリーンビレッジANMON前にある軽食売店では、その日の朝に獲れた岩魚をじっくりと塩焼きにして提供してくれます。白神山地から湧き出る豊富な水で育ったイワナは、サイズはもちろん、味も逸品!臭みがなく、頭まで美味しく食べられます。売店は津軽三味線の音楽とお母さんたちの津軽弁が賑やかで、青森らしい温かさを感じられます。
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【基本情報】
※各散策コースは、天候や通行ルートの状況によって通行できない場合があります。事前に情報収集をしてから向かいましょう。
ブナが生んだ伝統とモダン BUNACO CAFÉ
西目屋村は、白神山地にある資源を活用したBUNACO(ブナコ)の産地でもあります。
ブナコは全国一の蓄積量を誇る青森県のブナの木を有効活用するために開発された青森県の伝統工芸品で、西目屋村に生産工場を構えています。
ブナの木は水分が多いため建材には適さず、「役に立たない木」という意味から「木」に「無」と書いて「橅(ブナ)」と言われていたそうですが、一方で加工しやすい特性を活かして誕生したのがブナコです。
ブナコは厚さ1ミリほどの細いテープ状に加工したブナ材をコイルのように巻き、押し出して成型するというユニークな製法で、職人の手によってひとつひとつ丁寧に手作りされています。
シンプルモダンな洗練されたデザインでありながら、軽くて使いやすく、資源を無駄にしない製法のブナコは、エコやサステナブルを重視する今の社会にもぴったり。高いデザイン性や品質が評価され、グッドデザイン賞などの世界的な賞をいくつも受賞しているんです。
そんなブナコ製品の製造拠点となっているのが、西目屋村にあるBUNACO西目屋工場です。空き校舎となった小学校をブナコの製造工場としてリノベーションして使っています。学校の校舎らしい名残がいたるところにあり、工場内を歩いていると懐かしさも感じられます。1階にはブナコ製品のミニショップがあり、実際にブナコ製品を手に取ることができますよ。
天然のブナ材を巻き付けてできるブナコ製品が「バウムクーヘン」に似ていることに着目して生まれた「食べられないバウムクエヘン」は人気商品で、ミニショップでは西目屋産のはちみつ入りバウムクーヘンとセットで販売しています。バウムクエヘンは直径15センチ程度で、ハーフサイズのティッシュボックスとして使用できますよ。
同じく1階に併設されたBUNACOカフェは、もともとは西目屋村にいるお母さんが、お子さんたちを連れて来たいと思えるような場所を作りたいというコンセプトから、やさしい雰囲気のカフェとなっています。照明器具やコースター、お盆など、店内にはブナコ製品がふんだんに使われていて、贅沢で洗練された空間です。
カフェでは、西目屋村で採れたはちみつを使ったハニーピザや、西目屋村産の和栗をたっぷり使ったモンブランをメインにカフェメニューを提供しています。
ナポリ風西目屋ハニーピザは、トマトソースととろけたチーズの上にたっぷりはちみつをかけたお食事ピザ。チーズの塩気とはちみつの深い甘みがマッチしています。
西目屋和栗のたっぷりモンブランは、甘さ控えめで和栗の香りがしっかりと感じられる上品な味。底の部分ははちみつのバウムクーヘン、中にはたっぷりの生クリームが入っていて、和栗を引き立てていました。甘すぎないモンブランがお好みの方にはぜひおすすめしたい一品です。
旅人メモ:世界に一つだけのブナコが作れる制作体験
BUNACO西目屋工場では、工場見学とブナコ製品の制作体験ができます。
工場見学では、ブナコの生産工程のうちの6つの工程を自由に見学できます(予約不要)。
制作体験ではうつわや小物入れ作りに挑戦できます。体験後はブナコ職人が販売されている商品と同じ塗装・仕上げを施し、1か月後に手元に届くそう。自分の手で作ったブナコが使える状態になって送られてくるのは嬉しいですね。制作体験は要予約ですので、事前に工場へお問い合わせください。
白神焙煎舎で、ここでしか味わえないコーヒーの淹れ方体験
BUNACO西目屋工場から徒歩で行ける距離に、西目屋村の観光拠点である道の駅「津軽白神」/ビーチにしめやがあります。建物内にある白神焙煎舎では、巨大ロースターで焙煎されたこだわりのコーヒー豆やドリンクをテイクアウトで販売しているほか、併設の白神コーヒースタジオで淹れ方・焙煎の体験ができます。今回はコーヒーの淹れ方を体験してみました。
白神焙煎舎では、西目屋村がかつて生業としていた炭の製造をコーヒーに生かし、炭づくりからこだわっています。西目屋村のりんごの剪定枝などで炭をつくり、そのりんごの樹の炭を使ってコーヒー豆を焙煎する炭焼焙煎をしているんです。炭焼焙煎は高い焙煎技術が求められるため、炭焼焙煎のコーヒーを提供する店は少ないそうです。
淹れ方体験では、整水器でpH調節した白神山地の水を使用してコーヒーを抽出しました。コーヒー豆を分量通りにフィルターへ入れ、専用のヘラでコーヒー豆に溝を付けたら、お湯をゆっくりと入れていきます。
オーナーの成田さんからコーヒーを淹れるときの姿勢やポットの持ち方、お湯の注ぎ方などポイントをレクチャーしていただいて淹れてみると、1回目と2回目で抽出したコーヒーの味がガラリと変わりました。ちょっとした動作の一つひとつが、コーヒーの味を左右する…白神がもたらす自然の恵みと職人さんのこだわりがあるからこそ、美味しい一杯が出来上がることを、身をもって知ることができました。
白神焙煎舎ではコーヒー豆の炭焼焙煎体験も実施しています。自分好みのコーヒー豆を炭焼焙煎し、その足で白神山地の水を汲んでコーヒーを淹れるキャンパーもいるそうですよ。コーヒー好きにはたまらないですね。
他にも白神焙煎炭焼珈琲を楽しめるオリジナルメニューが多数あります。バーモントコーヒーはアイスコーヒーの上に白神生はちみつとりんごジャムを入れた生クリームがトッピングされたデザートのような一杯。自家製の生キャラメルはとても滑らかで、コーヒーのきりっとした苦みを引き立ててくれますよ。
西目屋村の観光拠点である道の駅「津軽白神」ビーチにしめやは、レストランや農産物直売所、インフォメーションセンターなどが一体となった観光施設です。津軽ダムへ向かう水陸両用バスも、このビーチにしめやを拠点に出発します。
ショッピングやランチはもちろん、これから津軽ダムや白神山地へ向かう方はここで情報収集や旅支度ができますよ。
旅人メモ:白神生はちみつソフトクリーム
ビーチにしめや内にある白神ワイナリーと白神生はちみつの店「BeFavo」では、道の駅の屋上で作られた白神生はちみつをたっぷりとかけて食べるソフトクリームやジェラートが人気。白神山地の旨味がたっぷり詰まった白神生はちみつはお土産にもぴったりです。
【基本情報】
【基本情報】
【基本情報】
白神ワイナリー&白神生はちみつ「BeFavo」(ビーチにしめや内)
白神山地からいただくたくさんの恵みは、森の中にとどまらず、人の暮らしにも豊かさや味わいをもたらしてくれています。大きな自然に包まれながら、心の充電をしませんか。